かえる291の読書日誌

本好き、コーヒー好き、妄想好きなかえるの読書の足跡

「職業としての小説家」  ~心地よい文体の秘密~

 

 村上春樹の本は、私の人生になくてはならないもの。同時代に、作家の母国語である日本語で、世界に先駆けて新しい小説を読める幸せをいつも感じる。

 今回の「職業としての小説家」も真っ先に本屋で購入し、すぐ読んでしまうのがもったいなくて部屋にしばらく飾り、大事にとってあったお菓子をちょびちょびかじるように、大切に大切に読んだ(読み始めると止まらなくなるのだけれど)。

 そして読了後の満足感に浸った後、しばらくすると、また最初からページをめくっている(幸せな時間…)。

職業としての小説家 (Switch library)

職業としての小説家 (Switch library)

 

 

 本書は、村上春樹の自伝的エッセイ。

 これまで、どちらかというと小説家としての自分について語ることを避けてきた著者だけに、こんなにも正直に、真摯に、具体的に、自身と創作について語っていることに、まず驚いた。

  本書の中で、「このフレーズ素敵だな」とか「ここ、書き留めておきたい」と思うところはたくさんあるのだけれど、すべてをここに記載するととんでもないことになりそうなので、今回は、私が「やはりそうだったのか。」と心から納得した点について紹介。

 

 それは、リズム。

 村上春樹の本を読んでいて、「ん???」とつっかえてしまったり読み返したりといったことは、まずない。(「いいなあ」と思って、部分的に繰り返し読むことはあるけれど)

 物語が、流れるように私の中を通り抜けていく。それが心地よくて、何度でも同じ本を繰り返し読むことになる。「この心地よさは何だろう?」と常々思っていた。

 その秘密は音楽、その中でもジャズだった。

ちょうど音楽を演奏するような要領で、僕は文章を作っていきました。主にジャズが役に立ちました。ご存知のように、ジャズにとっていちばん大事なのはリズムです。的確でソリッドなリズムを終始キープしなくてはなりません。・・・・・その次にコード(和音)があります。ハーモニーと言い換えてもいいかもしれません。・・・・・

 それから、最後にフリー・インプロビゼーションがやってきます。自由な即興演奏です。すなわち、ジャズという音楽の根幹をなすものです。しっかりとしたリズムとコード(あるいは和声的構造)の上に、自由に音を紡いでいく。

 

こうしてキーボードを叩きながら、僕はいつもそこに正しいリズムを求め、相応しい響きと音色を探っています。それは僕の文章にとって、変わることのない大事な要素になっています。

 

僕はそれがどれほど長い小説であれ、複雑な構成を持つ小説であれ、最初にプランを立てることなく、展開も結末もわからないまま、いきあたりばったり、思いつくままどんどん即興的に物語を進めていきます。その方が書いていてだんぜん面白いからです。

 

 そうか。村上春樹の文章は音楽だったんだ。 

 

 ものすごく腑に落ちた。

  小気味のいいリズムと和音、予測不能な即興演奏のようなストーリー展開。あれは、文字で表現されたジャズだったんだ。

 

 これ以外にも、”オリジナリティーとは何か”とか、”長編小説を書く作業について”とか、様々なテーマで丁寧に著者自身の考えが語られている。どれも村上春樹作品を読む上で新たな視点を与えてくれるものばかり。

 

 ああ、また本を開きたくなってきた…。

  

 では、また次回。ごきげんよう。